春日武彦

 「中途半端なところで時間が経過するのを我慢できるかどうか」っていうのが、援助者の実力の1つだと思っています。それは言い換えれば、精神の健全さの指標です。我慢できない人は、お手軽なストーリーを借りて妄想に走ることになる。

――週刊医学界新聞 第2613号 2004年12月13日

 内田樹との対談での発言。この対談は、『死と身体』(内田樹著)、『はじめての精神科』(春日武彦著)が共に医学書院から発行されたのに併せて行われた。

 対談に際して、編集部はこう前置いた。

お2人とも、「保留」あるいは「中途半端さに耐える」といったことを重要な能力として強調されています。医療界ではこれまで何もしない、あるいは保留する、ということは、一種の「敗北」とされてきました。

 確かに、医療は患者を早く治すことを目標として進歩してきた。患者の状態を保留するということは、早く治すことを放棄した態度と見られ、それは医療の後退と受け止められてきた。だが精神医療においては、保留することこそ、早く治すための道であることも多い。そのことを春日さんは言っているのである。同じようなことを河合隼雄中井久夫もどこかに書いていた。どんな言葉で表現していたかは忘れたが……。

 この対談の中で、内田樹は、「中途半端なところで時間が経過するのを我慢」することを、「中腰」と表現している。そのためには、「フィジカルな知性」が必要だと語っている。『死と身体』には、そのあたりのことがもっと詳しく書かれていた。