春日武彦

 内田樹から、精神科医の書く本は具体的なケースから始まることが多いということを指摘されての言。

 精神医学の雑誌を初めて見たときに、「こんなに面白くていいのだろうか」って思いましたね(笑)。
 それは結局、一般論に回収できない部分にこそ、とっかかりというか、その人の問題のポイントがある、ということなんだと思います。

――週刊医学界新聞 第2613号 2004年12月13日

 「こんなに面白くていいのだろうか」という感想は、まさに今のわたしにも当てはまる。幻覚の内容だとか、幻聴の聞こえ方だとか、いろいろ想像しながら読むと、本当に面白い。面白いんだけれども、患者がそんな状態をどんなに苦しがっているかと思うと、「面白い」とは言いにくい。だけど、患者を自分と同じ人間としてカテゴライズしているからこそ、彼らの感じとっている世界をわたしは「面白い」と感じるわけなのである。