「鏡心」

 今日は朝からアカデミー賞授賞式をテレビで観てました。あの華やかな世界を垣間見た後で、こういう地味〜ぃな映画の感想文を下書きしなけりゃならんとは、なんとも大きなギャップ。

 さて、きょうしん、と読みます。インディーズ映画です。石井聰亙監督です。初のワンマン映画だそうです。

 主演は市川実和子。助演に町田康さまが名を連ねております。町田康といったら、ご存知ロック野郎な芥川賞作家なわけです。が、そういう著名文化人がインディーズ映画に出る時にありがちな、チョロ出、かつクレジットは「特別出演」または「友情出演」、とかいうような半端な出方はしていないところはさすが町田康さまでございます。けっこうなキーパーソンとしてご登場なさり、かつ長セリフもがっちり決めてくれております。

 わたしったらついわかりやすいところから町田康の説明でこの評を始めてしまいましたが、ほんとのところ、この映画のキモは市川実和子の実存にあると思うのです。これって、セリフとト書きの整った、いわゆる脚本というものが本当にあったのでしょうか?と疑問に思うほど、市川実和子の演技はリアルだったのです。

 たとえば、市川実和子はずぶずぶに泣きじゃくりながら言葉にならない言葉を吐く。20代後半の、まだ何かを探している女に特有の不安定さが画面いっぱいに充満する。市川実和子、素っ裸の生身です。

 すると、深夜の渋谷の歩道橋が映ったりしてな。橋の上から街灯の光が、空気の粒とのブラウン運動なのか、上へ下へとちらちら動きながら射しているですよ。

 彼女が表現しているのは(=石井聰亙が表現しているのは)、同じ年齢でもサラリーマンの男だったらありえない感性だと思う。だからこの映画は観る人をけっこう選ぶんだろうな、と思う。メジャーじゃないのよね。やっぱだからインディーズなんだけど、わたしにとっては懐かしい感性だった。なんかやたらと懐かしくて、「ブラウン運動」なんて単語を中学校の理科の時間以来たぶん初めて思い出してしまったぞ。

 そうかと思うとバリ島にロケった光景が、フラッシュバックのように繰り返されます。なんでバリ島なんだよと思いますが、「自然はきれい、大事にしましょう」などというイージーなメッセージはもちろん皆無。「神の宿る島」的オカルトチックな期待感も絶無。だから「なんでバリなんだよ?」。いや〜だけど、考えてみたら、やっぱりバリなんだろう。バリの波と風がこのストーリーには必要だったんだなぁとも思うわけです。

 ストーリーの説明をまったくしていませんが、それはまあ、観に行って最後にわかればいいんではないかと思うのであえて書きません。頭で考える映画じゃなくて、心と感覚器官を全部使って体感する映画です。


http://www.kyoshin-xx.com/
3/30〜4/4 ラフォーレ原宿
4/16 21世紀美術館(金沢)
他、エキシビションツアー調整中とのこと。