段取りとはクリティカルパスなのである

 「段取り」という言葉にはどこかしゃきっとした雰囲気があります。「段取り」とか言っちゃう自分がいると、まるで賢くって明るい働き者みたいに錯覚できて好きです。料理は段取りが大切。だからナイスなタイミングでいろんな物が美味しくつくれたりすると、わたしは、ほんとに自分のなりたい人になれたように感じて自分のことが好きになる。

 料理の段取りとは、美味しく食べるために今この台所でわたしは何をどうしたらよいか、ということを考えて実行することであります。美味しく食べるためには何が必要かというと、味はもちろんですが、適切な温かさ、あるいは冷たさ、料理に応じた歯ごたえや舌ざわり、食欲をそそる香り、彩り、盛り付け……あー、それから、適度に空腹であることと。

 家庭の食卓はレストランじゃございませんから、前菜から順に誰かがつくって持ってきてくれるわけではありません。ということは、「いただきます!」と言うそのときには、食べたい物が全部揃ってできていなくちゃならないということです。

 たとえば、ある日の朝食。ご飯と味噌汁と焼き魚と、それからお新香もちょっとだけ食べたいな、と思ったとします。布団から出てまず最初にやるべきことは、お米を研いで炊飯器にかけること。パジャマを脱ぐより顔を洗うより先です。まだ眠くてフラフラしてても、米を研ぐ冷たい水でハッと目が覚めます。

 次に着替えて顔を洗って髪を梳かしたりし、台所に戻ってきたら、味噌汁の出汁をとります。お水に昆布を入れてな。さっき米を研ぎましたよね。そのときに鍋に水汲んで昆布をちょっと浸して戻して、なんてやってもいいですが、別に昆布入れてすぐさま火にかけたって出汁はとれます。そしてグリルに水を張り、そこにお魚を載せて焼きます。魚を焼きながら、味噌汁の具を用意します。味噌汁の具を用意しながら、魚をひっくり返します。出汁が沸騰しそうになったら、火を弱めて昆布を引き上げます。味噌を溶かします。具を入れます。冷蔵庫からお新香を出して切ります。お皿とかお椀とかお箸とかを整えます。さあそろそろご飯、炊けてませんか?

 これが段取りです。そう、まさにクリティカルパス。病院でやってるクリティカルパスと同じです。

 用意したい食べ物が4種類。つくる人はわたし1人。わたしの手は2本。コンロの口が2つにグリル付き。この条件下でいかにして、あったかいものは温かく、冷たいものは冷たいままに、いっせいに仕上がるようにするには行為の順番をあらかじめ頭の中でシミュレーションしてやればいいわけです。

 そこでそのクリティカルパスをこれから、基本的な献立について考えていきたいと思います。