『老いる準備』

 金曜日の午前中までにレビューを書くと約束してしまったのに、まだ半分しか読み終わってないっ(汗)。でもおもしろいっ! これ、おもしろいっ! 上野千鶴子さん、50歳代に入られて、なんというか、角がとれたというか、相手を説得するための言葉から、自分の思考を追う言葉を獲得したようで、わかりやすくなりました。怖くてこっちが引いちゃうような表現がありません。
 ま、ともかく今日はとりいそぎ、ここまでに付箋をつけたところを抜書きです。金曜日に編集部へ送稿したら、少し加筆してこちらにもアップします。

 強さを価値として持てば持つほど、自分がその能力を失っていくことに耐えられなくなる。価値と現実のギャップが広がる。あたりまえのことだろう。それだったら、はじめから自分の弱さに居直って生きていく道はないだろうかというのが、わたしのフェミニズムの出発点だった。(p.18)

 以下は、「かわいいおばあちゃんになりたい」という女たちがよく使う言説について。

 「かわいい」というのは、女が生存戦略のために、ずっと採用しつづけてきたことばである。かわいければ、めんどうをみてもらえる。かわいければ、トクをする。反対に、かわいくなければ女じゃない。それなら、かわいくないわたしは女じゃないのか。ばばぁになったわたしは女じゃないのか。かわいくないおばあちゃんは生きていけないのか……という問いが、次々に浮かぶ。
 「かわいいおばあちゃんになりたい」というのは、女が依存的な存在として生き抜いていくための生存戦略というべきものであった。年とった女のうち、だれが好きで「かわいく」なんかなりたいだろうか。わたしなぞは、「かわいくない女」と人から言われるが、いま、かわいくないわたしが、将来にわたってかわいくなる可能性はあるだろうか。それなら、年寄りがかわいくても、かわいくなくても、生きていける社会をつくるほうが、大事ではないだろうか。(p.28)

 次は、上野千鶴子さんが理事を務める向老学会について。ここで言われていることは、立岩真也さんが『弱くある自由へ―自己決定・介護・生死の技術』で主張していたことと同じだ。

 向老学の目指すところは――わたしはフェミニズムもまた、それを目指していたと思うが――年寄りにも能力がある、したがって価値がある、と主張する代わりに、能力がなくても、だれからも貶められずに生きていける社会をつくることだ、とわたしは考えている。一般に価値というのは、誰か他人が自分に与える価値をさす。あの人はまだ役に立つ、という意味の価値である。そのような価値のことを社会的価値というが、たとえ社会的な価値がなくなったとしても、人間としての尊厳が失われない社会、そのような社会の構築こそが目標ではないだろうか。(p.33)

 次は、1972年の大ベストセラー『恍惚の人』の作者・有吉佐和子さんのインタビュー記事から上野千鶴子さんが引用し、感想を述べているところ。有吉佐和子さんはわたしも好きだ。

 「たとえ痴呆になっても、わたしはとことん生き延びてやろうと思います。おぎゃーと生まれたときには寝たきりでした。人の手にかかって依存的な存在として生まれてきたのだから、やはり人様の手にお委ねして、依存的な存在として死んでいきとうございます。」
 わたしはそれを聞いて、これは女の思想だ、と感じた。産まれ、産み、人の生き死にに立ち会ってきた女ならではの発言だと、感銘を受けた。(p.40)

 次は、最近の人口統計について。これについては、具体的な数字などをまた調べてみなくては・・・単行本の企画書を書く前に。

 まず人口統計から見て非常にはっきりした変化は、高齢者の世帯分離の傾向である。65歳以上の高齢者の子世帯との同居率がどんどん下がっていて、「少なくとも夫婦そろっているあいだは独立した世帯で」というのがほぼ常識になってきた。夫婦世帯で一方に先立たれたら、単身になる。これまでは単身になってから、子世帯と中途同居する傾向があったが、最近では、それでも同居をしないで単身で暮らす高齢者が増えている。このところ、単身世帯率を押しあげているのは、若年層だけではなく、高齢者層でもある。(p.51)

 以下は、「コミュニティ」について触れた項から。「縁」というある種の強制力をもち、自由に選択できない関係に加えて、上野千鶴子さんは「選び合うえにし=選択縁」という概念を提示する。

 不自由な人間関係から逃げ出してつくった脱血縁、脱地縁、脱社縁の人間関係を、わたしは「選択縁」という言葉で呼んでいる。お互いが選びあうえにしだからである。わたしは選択縁を先行的につくりあげている女性の集団を対象に研究し、女縁と名づけたことがある(上野千鶴子著『「女縁」が世の中を変える』日本経済新聞社、1988年)。それというのも、都市化社会のもとで血縁・地縁の集団は解体し、さらに男なら参入できる社縁からも排除された女性は、そのいずれでもない人間関係をつくりだす必要に迫られていたからである。現に女縁のキーパーソン、最初の言い出しっぺは、転勤族の妻という立場の女性が多い。しかもこの女縁の集団のなかでは、緊急の際の子どもの預けあいや葬式の手伝いなど、かつてなら血縁・地縁の集団が果たしていた互助の機能があることがわかっている。(p.131-132)

 次の段落は、上記の選択縁の概念から高齢女性の生き方のヒントになりそうな考察。

 選択縁の特徴はまず、加入脱退が自由なことである。次に、包括的な参加に対して部分的な参加であることだ。これなら、ひとつの選択縁で面子をつぶしても他の選択縁へのりかえればすむ。ひとつの集団のなかでの失敗が、全人格の否定になるような致命的な打撃を避けることができるアイデンティティリスク管理も、選択縁の特徴だ。だからこそ、この選択縁の集団のなかで、女性は他のだれにも言えない個人的な悩み、婚外の恋愛や姑との確執を口に出す。女縁の調査では、ひとつの選択縁で活発な人は、他の選択縁でも活発であり、多くの選択縁のコミュニティに多重帰属していることがあきらかになった。しかもその多重帰属のグループのメンバーが重ならないように統制し、そのそれぞれで違う顔を見せているという驚くべき発見もあった。自分の人格をまるごと預けない部分帰属と、高い選択性――それが市民的成熟と呼ばれるものであろう。(p.133)

 「地域」に替わる「コモン(共同体的所有)」についての項では、コモンを次のように言い、またそこから生活の質について、これを老いと重ね合わせたときに必要となる福祉の質へと言及する。当事者主権の考え方にもつながる。

 コモンというのは相手を選ぶ関係である。逆にいえば、どんな相手を選ぶかで、コモンの性格は決まってくる。自分の生活の質を高めたいと思えば、コモンの水準を高めるほかない。コモンのなかでは、かつて血縁・地縁が果たしていた互助の機能がはたらくが、どんなコモンを選ぶかで得られるサポートの質も変わってくる。だから、よいサポートを得たいと思えば、自分自身がどんなコモンをつくり出していくかが問われるのだ。
 お互いが仲間を選び合ってつくり出していく助け合いのネットワーク、そういうものが、市民のつくりだす「地域」だと、ほかに言葉がないからそう呼んでいるだけで、この「地域」は、かつて使われていたような、お隣だから、ご近所だから仲よくしましょうという意味の地域ではない。
 住民参加型地域福祉と呼ばれるものの実態は、こういうコモンから成り立っている。それはこれまでパブリックが提供してきた、最低限度のかつだれにでも公平に保証される福祉とは異なっている。ここでいう「住民」とか「地域」とかいう用語を、かつての地縁のような関係ととりちがえないようにしよう。うらがえしていえば、地域福祉の水準は、それをコモンとして選ぶ人々のコミットメントによって決まる、のである。(p.137)

 介護というサービスについて。

 介護というサービス商品を市場に委ねる選択は危険すぎると、わたしはずっと思ってきた。カネ(だけ)で良いサービスは買えない、少なくとも介護市場では、価格がサービスのクオリティを保証するとはかぎらない。カネさえ払えば良い品質のサービスが買えるとはかぎらない、のがシルバーマーケットが教える教訓である。(p.142)

 ま、言われてみればあたりまえのことだが。。。しかしだけど、今のところは上野さんの言うように、当事者意識をもって選択することがより幸せな老後を送るために必要なのかもしれないけれども、そんな意識もなくただ生きているだけで必要なサービスが必要十分に受けられる、満足できるというのが自然なあるべき社会の姿なのではないかと思ったりもする。
 つまりさ、当事者意識をもって選択すること、って今のところ、闘いじゃないですか? 闘いたくないという人だっているだろうし、そういう闘いたくない人にも十分なサービスが行き渡らないことには、誰にとっても生きることを保証できる社会とは言えないのではないのかな? この点では、立岩真也さんのほうがもっと先を目指しているのかなという気がします。てゆーか、これって単に上野さんと立岩さんの姿勢の違い? 闘ってきた上野さんの姿がやはり、ここにもくっきりと見えます。
 以前は(ムキになって)闘っている感じが、すごくキツく感じられてちょっと敬遠してたけど、この本を読みながら、なんだ上野千鶴子さんてかわいいじゃん、と思ったりもするように。うーん、だからって、こうするべきよ、と言われて、もちろんそのほうがいいのだろうとはわかっていても、じゃ、そのようにワタクシも生きてまいりますわよ、という風には思わないのだなー。

 とりあえず、今日はここまで。

老いる準備―介護することされること
上野 千鶴子
学陽書房 (2005/02)
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ISBN:4313860959