延命治療に関する医師へのアンケート

 厚生労働科学研究費補助金「脆弱高齢者・終末期患者への診療に関する判断、および診療行為の質の評価と改善に関する研究」の一部として行われる医師を対象としたインターネット調査あり(〜3/31/2005)。
 主任研究者は、独立行政法人国立病院機構 東京医療センター(臨床研究センター) 臨床疫学研究室 尾藤誠司氏。結果は、平成16年度厚生労働科学医療技術評価研究事業報告書として提出し、平成17年のうちに日本総合診療医学会(2005年5月)に発表の予定。
 設問は4つ。

ケース1
84歳男性、もともと軽度の痴呆があり、要介護度3の生活を送っていた。今回左の内頚動脈塞栓による意識障害を伴う片麻痺にて入院。急性期は一命を取り留めたが、入院6日後の時点でも意味のある会話は全く不可能である。身体機能としては、ベッドに一日中臥床し、数時間おきに体位の交換が必要な状態である。口の中に唾液や痰がたまり、1日10度ほど口腔内を吸引している。栄養状態の維持のためには、そろそろ経腸栄養剤の投与が栄養管理上必要である。経鼻胃チューブ挿入、もしくは胃ろうの造設による経腸栄養剤の投与について家族に説明したところ、「本人が苦しくないのであれば判断は任せます。」との返事であった。本人の事前の意思を推察するような情報はない。

問1. 上記の患者に対して、あなたは経腸栄養の開始についてどうあるべきと考えますか?

  • 経鼻胃チューブ挿入、もしくは胃ろういずれかの方法で経腸栄養を開始するべきである。
  • 経腸栄養の開始を差し控えるべきである
  • 上記の情報のみでは判断できない


問2. 上記の患者に対して、あなたは経腸栄養の開始についてどうしていますか?

  • 通常、経腸栄養を開始している
  • 通常、経腸栄養の開始を差し控えている
  • どれがおおいとはいえない
  • 上記のような状況に遭遇したことがない


問3. 上記の患者に対して、医師の判断で経腸栄養の開始を差し控えることは、ある一定の条件がそろえば、法的に許容されうると思いますか?

  • 通常、許容されうる
  • 通常、許容されない
  • わからない

ケース2
84歳男性、内頚動脈塞栓による意識障害を伴う片麻痺にて入院し、ケース1と同じ急性期の臨床経過をたどった。6日目に経鼻胃チューブ挿入した上人工栄養を開始した。麻痺と意識の状態はそのまま固定し、数種類の内服薬以外は人工栄養の定時投与のみの状態で、寝たきりとなるものの全身状態は安定していた。入院20日目に急に呼吸状態が低下、大きな誤嚥性肺炎であることがわかった。低酸素血症、努力呼吸となり、救命・回復のためには人工呼吸器の装着が必要な状態となった。おそらく肺炎の治癒は可能と思われるが、人工呼吸器の装着は数週間必要になり、場合によっては気管切開も必要になるかもしれない。家族は、やはり「本人が苦しくないのであれば判断は任せます。」との返事であった。

問1. 上記の患者に対して、あなたは人工呼吸器の装着についてどうあるべきと考えますか?

  • 人工呼吸器を装着するべきである
  • 人工呼吸器の装着は控えるべきである
  • 上記の情報のみでは判断できない


問2. 上記の患者に対して、あなたは人工呼吸器の装着についてどうしていますか?

  • 通常、人工呼吸器を装着する
  • 通常、人工呼吸器の装着は控えている
  • どれがおおいとはいえない
  • 上記のような状況に遭遇したことがない


問3. 上記の患者に対して、医師の判断で人工呼吸器の装着を差し控えることは、ある一定の条件がそろえば、法的に許容されうると思いますか?

  • 通常、許容されうる
  • 通常、許容されない
  • わからない

ケース3
84歳男性、内頚動脈塞栓による意識障害を伴う片麻痺にて入院し、ケース1、2と同じ急性期の臨床経過をたどった。6日目に経鼻胃チューブ挿入した上人工栄養を開始した。麻痺と意識の状態はそのまま固定し、寝たきりとなるものの全身状態は安定していた。その後、胃ろうを造設した上28日目に療養型病床群に転院、6ヶ月が過ぎ、寝たきり、意思の疎通不能、1日10回の吸引と1日数回の体位交換が依然必要な状態である。ある日、病棟担当医であるあなたに、いつも見舞いに来ている家族(妻と長男)から、「もうかわいそうで見ていられないので栄養の管を抜いてほしい。」との依頼があった。

問1. 上記のような状況に対して、あなたは、家族の依頼に応じて人工栄養の中止をすべきであると考えますか?

  • 中止するべきである
  • 中止するべきではない
  • 上記の情報のみでは判断できない


問2. 上記のような状況に対して、あなたは人工栄養の中止についてどうしていますか?

  • 通常、中止している
  • 通常、中止しない
  • どれがおおいとはいえない
  • 上記のような状況に遭遇したことがない


問3. 上記の患者に対して、医師の判断で人工栄養を中止することは、ある一定の条件がそろえば、法的に許容されうると思いますか?

  • 通常、許容されうる
  • 通常、許容されない
  • わからない


上記の患者に対する医療行為の中で、下記に示す医療行為について、あなたは“延命治療”のカテゴリーに入ると考えますか?それぞれについてお答えください。
問4. 胃ろうから人工栄養を続けること

  • 延命治療に入る
  • 延命治療には入らない
  • どちらともいえない


問5. 上記の患者が重症肺炎になったときに、離脱まで最低7日以上かかる見込みで人工呼吸器を装着すること

  • 延命治療に入る
  • 延命治療には入らない
  • どちらともいえない


問6. 上記の患者が肺炎となったとき、痰を頻繁に吸引するために気管切開を行うこと

  • 延命治療に入る
  • 延命治療には入らない
  • どちらともいえない


上記の患者に対して、あなたは、下記に示す医療行為について“患者にとって無益な治療行為”であると考えますか?それぞれについてお答えください。
問7. 胃ろうから人工栄養を続けること

  • 患者にとって無益であると考える
  • 患者にとって無益であるとは考えない
  • どちらともいえない


問8. 上記の患者が重症肺炎になったときに、快復に最低7日以上かかる見込みで人工呼吸器を装着すること

  • 患者にとって無益であると考える
  • 患者にとって無益であるとは考えない
  • どちらともいえない

(最後のページに一般的な質問)
問1. あなたは、患者への人工呼吸器の装着や中止、もしくは経腸栄養投与の開始や中止などの判断に関して、同僚間で話し合うことはどれくらいありますか?

  • しばしば行っている
  • ごくたまに行っている
  • 議論の経験はない


問2. あなたは、患者への人工呼吸器の装着や中止、もしくは経腸栄養投与の開始や中止などの判断に関して、院内でのカンファレンスなどで議論したことはどれくらいありますか?

  • しばしば行っている
  • ごくたまに行っている
  • 議論の経験はない


問3. あなたは、患者への人工呼吸器の装着や中止、もしくは経腸栄養投与の開始や中止などの判断に関して、倫理委員会や、医療倫理学などの専門家への相談を持ちかけたことはありますか?

  • 相談をした経験がある
  • 相談をした経験はない

 サンプルがどのぐらい集まるかにもよるが、興味深い研究だと思う。結果に注目したい。