尊厳死と刑法

 甲斐克則『尊厳死と刑法』。

日本学術会議の報告書(1994年5月)からの引用。

 尊厳死を認めるということは、生命の保護という『ダム』の決壊作用をもたらし、生命軽視という『滑りやすい坂道』(slippery slope arguments)へと第一歩を踏み出すものとして倫理上問題があるばかりでなく、尊厳死は人の生命を短縮する措置と考えることもでき、刑法上の殺人罪自殺関与罪に該当する疑いも否定できない。

 それ(リビング・ウイル)は、主治医=患者間の『対話性』と『同時性』に欠ける意思表明であることを認識するとともに、それはそれで自己の身体の処分として有効なものか、それとも現に植物状態になってからの現場の工夫と配慮とにより補強されることによるのかなどなお熟考を必要とする。