004:神経内科医の文学診断
神経内科だということならid:ajisunならおそらく知っているのだろうと電話をしてみたら、果たして知っているようだった。お世話になっていると言っていた。だけど、「岩田先生の新刊がコレ、面白いのだよ」と言ったら、「そうなんだ! そういう本も書くんだ!」とびっくりしてた。岩田先生とはまったく面識もないのだけど、ajiより先にこの本を読んで、おそらくajiが岩田先生を親しく、また尊敬しているのとは違う面を知って、わたしもまた、この岩田先生を(まったく面識はないながら)親しく感じ、尊敬の念も抱いたというのは、ちょっと面白い。
amazonのユーザーコメント(これはお弟子ドクターが書いたのかな?)にもあるように、まさに教養人。と言って、ちっとも衒学的ではなく、本当に心から素直に、こちらも愉しみながら、時に考えさせられながら、自分のことも振り返りながら読める名随筆だった。
縁あってここ数年、松本清張さん関係のお仕事を手伝わせてもらったことがあり、岩田先生がこの本にもしばしばいろいろな清張作品を引き合いに出されているのをうれしく思ったり。北条民雄の章では、ハンセン病の痛覚についての考察、想い、そしてそこから熊野詣での話に流れてゆくあたり、アァ、アァ、と何度もひとりで声を上げながら読んでいた。「アァ」の中身は、「ああそうだったのか……」「そういえばあのときあの人がこんなことを言っていたっけ……」「あの本にあのように書かれていたのはこういう意味だったのか……」などなどいろいろの感嘆である。
この本で言及された数々の名作で、この後、自分も読んでみようと思った本をさっそく「ほしいものリスト」へ登録。しかし今のところへ引っ越してきてからはすぐ近くの図書館がめちゃくちゃ充実しているので、よほどでない限り買わずにこの「ほしいものリスト」を見ながら図書館のサイトで予約をして確保できてから受け取りに行くパターン。前のところではまったく図書館に行くのが面倒くさいばかりで、amazonに月数万円も落っことしていたのがまるで嘘のようだ。
今日は新刊紹介の連載原稿の締め切りだったわけで、書くには書いたけれども、文字数が少なすぎて何にも書けなかったに等しい。いつか岩田先生にお目にかかる機会があったら、ちっちゃな欄なのでお目に留まるわけもなかろうが、まずはお詫びをすることから始めなければなるまいな。
で、岩田先生の随筆にそそられて、ほしいものリストに加わった本たち。
・ウィリアム・アイリッシュ『じっと見ている目』……ロックトインの患者が事件解決の鍵を握っていたというサスペンス
・北条民雄『癩院受胎』……ハンセン病患者の痛覚の話。作家自らが自らの病を小説に書くと。
・森鴎外『澁江抽齋』……「感激しつつページを繰った」を追体験したいもの。
・アントニオ・タブッキ『レクイエム』……いまだ須賀敦子のすごさを完全には理解していないわたしにも、タブッキがわかるだろうか?
そうそうそれと、映画「愛染かつら」というのも、名前だけ知ってて何も知らないので、一度観てみたいと思ったのであった。それから、もしももう一度、藤原くんの「身毒丸」が上演されることがあったら、今度こそは弥生さんに連れてってもらおうと思ったのであった。いずれもハンセン病関係。
そういえば、わたしが大学時代に入院していた結核病院の病棟図書室には、「結核文学」という棚があったものだが、全生園にもまた、そのようなものがあったらしい。いや、今でもあるのかな。