071:インターセックス

インターセックス
インターセックス
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帚木 蓬生
集英社
売り上げランキング: 7595
おすすめ度の平均: 4.0
4 まずはエンブリオから......
4 そういえばミステリーでした・・
4 やっと完結?
5 サンビーチ病院に憧れます
4 医療の錯誤を問う話題作
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 インターセックスとは、というくだりが本書の中にあるので、引用しておく。後に自助グループが立ち上がるきっかけとなったホームページの記述、ということになっている。

――インターセックスとは、文字どおり男性と女性の中間に位置するさまざまな性を意味します。人間の性は原始の時代から、男と女の二つに分類されてきました。宗教の世界でもこの二分法は変わらず、旧約聖書ではアダムとイヴから人間の歴史が始まっています。しかし、男と女に二分する方法は、全くの観念的なもので、自然界の現実を反映していないのです。

 定義のあとに、具体的なインターセックスの例が五種類記述されていた。
 第一は、性染色体がXXかXYのどちらにも属さない例で、XO、XXX、XXY、XXYY、XYYなどだ。
 第二がAISで、アンドロゲン不感受性症候群だった。性染色体はXYなのに、成長過程でアンドロゲンの影響を受けないため、外見は女性の身体になってしまう。
 第三はCAHで、先天性副腎過形成だった。これはAISとは反対に性染色体はXXなのに胎生期にアンドロゲンが過剰生産されてしまうため、外見は男性化してしまう。
 第四は、膣無形成で、性染色体はやはりXXだが、膣もないし、かといって陰茎ももちろんない。しかし外見は通常の女性だ。
 そして最後の第五は、真性半陰陽で、卵巣組織と精巣組織の両方をもち、外見でも男女を特徴をあわせもっている。本来異なる性の双生児になるはずであった接合体の融解が原因と考えられている。

――こうしたインターセックスの発現率は、幅広い見方をすると百人に一・五人の割で生まれます。わたし自身は前の分類でいけば第四のタイプに属しており、疾患の正式名称は、メイヤー・ロキタンスキー・キュスター・ハウザー症候群です。
(p.309-310)

 サンビーチ病院がおもな舞台となっていて、『エンブリオ』の続編です。後半、謎解きが始まると、そういえばミステリだったかと思い出します。ミステリとしては面白くないのかというわけではなく、ミステリの素地として医学的な記述だとか、現代の医療が抱える問題などがいろいろと書かれていて、そこが非常に面白い。帚木さんの作品の醍醐味だと思います。
 サンビーチ病院はもともと産婦人科からスタートした総合病院なので、今日の産科医療体制についても書かれています。冒頭に、大野病院で医師が告訴された事件についてもかなり詳しく書かれています。産婦が亡くなったという一点で感情的になって、ただただ医療者側だけを批判する一般の人たちもこういうのをちゃんと読んで(本当は裁判記録とか)何がどうなってどうしちゃったのかということをわかってからモノ言ってほしい。
 わたしが印象に残ったのは、マイノリティの自助グループについてでした。自助グループの存在がどのように当事者を支えているのか、といったことがよく伝わってきます。
 インターセックス自体が目を引く素材なのでそこばかりに焦点がいってしまいそうですが、ほかにも著者は丁寧に書こうとしているところがいっぱいあり、この作品を論じる視点はいろいろあっていい、いろいろあったほうがいいとわたしは思いました。☆5つ。