089:身体知と言語

身体知と言語―対人援助技術を鍛える
身体知と言語―対人援助技術を鍛える奥川 幸子

中央法規出版 2007-03
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 ある雑誌の鼎談起こしの仕事があり、そこにこの本の著者・奥川さんが参加されるということで読んだ参考文献です。彼女はMSWでした。対人援助を職とすることの難しさ、その困難を克服する術を、自分の体験を言語化し体系化することで伝えていこうという意欲的な作品。600ページを超える大著です。
 抜き書きしておきます。

 年齢が経てからスタートする対人援助職者の場合は、dの<わたくし的な《私》>の年齢に応じた人生経験やこころの襞をその身体に刻み込んでいますから、その姿からは年相応の安定感をクライアントに与えます。さらに、クライアントの人生の部分の奥行きをかなりの深さで理解できます。が、あくまでも個人的な経験や物差しの範囲になります。また、クライアントの苦しみや悩みなどはかなりその身体に吸収できるのですが、疾病や障害、発達段階に応じた一般的な人生周期上の課題と個別的なズレや歪みなど、ケアに関わる対人援助実践に必要な基本的な知識がまったく無いか、応用知の段階に達していませんので、全体像としての理解に苦しみます。さらに<わたくし的な《私》>レベルで吸収したたくさんの情報を職業的に分析・統合できるだけのサイズの解析装置が身体に設置されていない点が、年齢を経てからスタートした援助職者を苦しめます。→「d★1-・3 クライアントの『問題ではなく、ひと的な部分』とくに感情的な側面や人間関係などについてはかなり奥行きの深いところまで汲みとれるが、職業レベルの情報解析装置ができていないので、自分の価値観や社会常識に左右されがちである」 さらに人生経験を経て、基本を身につけていないか、自己点検できるだけの技倆を獲得できていないかたの場合は、ときにして「・3(の続き)クライアントが陥っている状況と援助者の体験などが重なりあったときに過剰同一視が生じる」危険が控えています。クライアントの身体に深く刻印された想いを魂レベルで理解できるからです。ですが、そのことへの職業的な対処方法を獲得していなければ、年齢が高いことの利点が凶器に変貌することもあります。

 メモ書きのようになってしまいますが、対人援助の一通りの技術を身につけた人にとって、第二段階の大きな目標は、「クライアントが生きている世界で理解できることを目指す」とあります。クライアントの「過去・現在・未来」の座標軸のなかでの「現在・いま」の四次元的理解を目指すためには「徹底した言語化作業」が必要だと説いています。言語化の作業は伝えることにもつながっていき、援助職者自らの自信、存在への確信にもつながっていくのがこの後を読むとわかります。

 例えば

 「あくまでも直観(暗黙知)レベルであり、状況の言語化・絵解きができない」という但し書きは、この第二段階終了地点まで達していても、まだまだ自分を信頼できる域に達することが困難であることを示しています。(中略)「→これができないと自分の支援を信頼できないで、これでいいのか、という不安が常につきまとう」「←何故かという理由や根拠を見いだせなくて悩む。この段階で困ってしまう援助職者が多く見られる」と記述したとおりです。

 最後のほうで書かれていたこと。

「センス」は資質ではなく、訓練によって身につくと確信しています。

 この本の中に、奥川さんがこれまでに読んできた本の一部が、高齢者を理解するための本として挙げられていました。わたしも順に読んでいこうと思います。
私の目を見て〜レスビアンが語るエイジズム
今かくあれども
82歳の日記
あと千回の晩飯