064:父・こんなこと

父・こんなこと (新潮文庫)
父・こんなこと (新潮文庫)
新潮社 1967-01
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 幸田文はいつ読んでも,こわい女だと思ってしまう。こんな女が友だちだったら一瞬でも気が抜けないと思ってしまう。翌日どこでどんな悪口を言われるかわかったもんじゃないからだ。それになんだか,毅然としすぎている。本人,自分のことを「かわいげがない」と書いているが,これは謙遜でも誇張でもなく,ほんとにかわいげのない女だと思う。じゃ,友だちになりたくないのかというと,そういうものでもない。こういう人が身の回りにいるというなら,その人自身も身ずまい正しくカッコ良い女なのだろうと思う。うらやましかったりする。
 という幸田文が,父・露伴を看取るまでのことを随筆にした作品。これまただいぶ前に読み終わって長らくここにメモを書かなかったので,どこがどうだったかは定かに覚えていないのだが,父を思い,世間と自分ら家族との位置をおもんばかり,出入りする人々の挙措を見つめる,いちいちが鋭く細かく,客観的でありながら直感的であり,何がどう書かれてあっても100%女であったことをつらつら思い出す。やさしくはないんだよね。自分がコレと決めた人にしかやさしくできない女だ。
 この人の書く文章は,詩みたいだ。どれだけ憧れても誰にもまねはできない。