099:悼む人
悼む人 | |
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静人の行為を非難する人がいる。確かに、もっぱら死者にのみ向けられたその視線は異様にも映る。だけれども、読んでいくうちにわかるはずなのだ。これは死者を分け隔てなくというだけでなく、生者も同じように分け隔てなく、さらに死者も生者も分け隔てなく、「丁寧に人を想う」ということを表した物語なのだ、と。それが感じ取れないのだとしたら、読み手はそんな自分が自覚なくその人生で置き去りにしてきたものの大切さを悔やむべきである。
もっと具体的に考えられることをピックアップするとしたら、まずいちばんに挙げたいのが、末期がん患者である静人の母・巡子の描写だ。その心情、生活、受けているケアなど、非常に行き届いた表現がされている。尊敬に値する想像力だと思う。死を前にした人間が何をどう感じるか。何を考えるか。ここに描かれた巡子の姿に、わたしは、希望を見出すことができた。
おびただしい死を語りながら、これほどまでにくっきりと「生」を浮き彫りにさせた物語はほかに知らない。そしてまた、現代にあってこそ成立する物語でありながら、いつの世にも深く感銘を受ける読者がたくさんいるだろうと思われる物語であることも記録しておきたい。ここ2年ぐらいの間に読んだ小説の中では、出色の作品であった。