029:日本の子守唄
日本の子守唄―民俗学的アプローチ (精選復刻紀伊国屋新書)
posted with amazlet at 08.07.03
2008年3月3日に亡くなられた、詩人であり、作家であり、評論家でもあった松永伍一さんの代表作。5月に開かれた偲ぶ会に、年譜が配られたのだが、それによれば初版1964年。わたしは近くの図書館に所蔵されていた初版本で読みました。
日本の各地に伝わる子守唄をフィールドワークにより蒐集し、論考したもので、そのアプローチはやや民俗学的。民衆史とでも言うのかな。この松永さんという人は、社会的弱者に対する視線が温かいということで知られていたらしく、この著作からも、歴史の上では無名のおんなたちや子どもたちへの愛が伝わってくる。
でもセンチメンタルではない。抑えた筆致で、過不足なく民衆の思い(そこにはまぁ、喜びもあったにせよ、哀しみのほうが重かった)を写し取ってみせる。論文ではあるのだけど、エッセイとしても読める。すごい書き手がいたものだと、今さら知り、もうどんなことをしても会えないと思うと惜しくてならない。もう少し早く知っていれば、インタビューの機会を無理やり作って会いに行ったものを。
合掌。