『統合失調症あるいは精神分裂病』

 まずはこの本のタイトルから説明する必要があるかもしれない。

 2002年1月、日本精神神経学会は「精神分裂病」を「統合失調症」と名称変更することを決めた。名称変更に至った経緯には、「精神分裂病」という病名は偏見を助長しやすいということから、主に患者・家族からの要請があったとされる。

 簡単に言ってしまうと、「精神が分裂してしまう病」より「統合が失調している症状」の方がなんとなく治りそうな気配がするじゃないか、治るのならそんなに凶悪な病気じゃないんじゃないの? そうだ病気なんだよね、かわいそうだね、という風に、つまり「怖い」から「大変だね」へと世間の感じ方が変わるんじゃないかという期待が、病名の変更には込められていた。

 ではどのような病気なのか、それがここに語られている。

 著者・計見一雄は、千葉県精神科医療センターの設立に携わり、精神科における急性期医療を積極的に進めてきた人で、統合失調症患者も何千人という単位で診てきている。今年3月をもって同センター長を退くにあたり、医療関係者を前に、統合失調症について9回にわたって講義をした。この本はその講義録だ。

 統合失調症は発症間もない急性期の治療が、その予後を大きく左右すると言われている。計見は急性期にある患者を数多く診た経験から、適切な治療を施せば治る病気だと考えている。そして、病名の変更にも、賛成の意を表している。

 ところで、わたしのはてなダイアリーのIDは、schizophrenic:統合失調症患者ということになっております。実のところは、つい最近までうつ病患者なのでありました。うつ病はdepression。すると、うつ病患者はdepressionist? patient with depresseion? 回りくどい。しかし試しにschizophrenicと入れてみたらこれが通ってしまい、そのまんまというわけです。ま、いっか、、、基本的なことですが、うつ病統合失調症は別の病気です。

 本の話に戻ります。計見さんのお話、よくよく読まないと難しいところもありました。後半の自我についてのところは特に難しい。何がどう失調しているのかを理解するためには、この「自我」というものが一般的にはどのような構造になっていて、統合失調症という病気に罹るとどうなってしまうのかがわからないといけないわけです。必然的に、自我へ言及せざるを得ない。華々しい幻覚や幻聴の体験をいくらたくさん知ったとしても、患者が何に苦しんでいるかということや、その苦しみからどうやったら救うことができるか、といったことへはつながっていかない。人間の自我、自己、主体とは何か、つまるところ、これが問題の核心です。

 計見さんがべらんめぇ調に語る自己と主体とは、、、ちょっと長くなりますが、引用です。

 内的生活に関するメタファー・システムの一般構造は、一つの「主体」と一つまたはそれ以上の「自己」の間の根本的な区別の上に基礎を置いている。で、「意識」とか「主観的体験」とか「理性」とか「意志」とか、そして我々の「本質」つまり我々を独自にしているすべてのものの座が、「主体」であると。「自己」は主体によって拾い上げられない人物の部分で、少なくとも一つの自己があり、もっと多くの自己があることも可能だと言います。

 この複数の自己群というものが何によって成っているのかというと、我々の「身体」、我々の「社会的役割」、それから我々の「生育史」、さらに世界の中での我々の行為などから成る、ということです。

 つまり、「私」というものはもともと分かれている。概念の「私」というものについて人間どもが認識する時には、「単一の、変わることなき統一体をもって、いつも同じように考える『私』」なんてありはしないのだ。それを保とうとしているものはありますよ。「主体」というか、そういうものは、ある。だけどその「主体」の言うことを聞かないやつもいるし、一緒に仲良くなるやつもいるし、時々この主体様の知らない間に外に出て行って何かやっちゃうような、そんな「自己」というものもあるんでしょうね。

 だから、「自我の分裂」だとか、「自我境界が崩れている」とか、「多重人格」だとか変なことを言って全部病名にしているけれども、別に皆さんは不安にならなくてもいいんです。寝ている間ぐらいにはよろめき出て行くかもしれないけれども、普通はそんなことはない。もともとの作りが……「作り」といっても「脳の作り」という意味ではありません、人間が「自分」というものについて考える「理解の仕方」というか、「概念化」の中にはこういう分裂と言ったらいいのか、そういうものがあるんだ、ということのようです。

 どうでしょうか? わたしはこの箇所を3度読んでいろんなことが腑に落ちました。1回読んだだけじゃわかんなかったんで、3回読んだわけですけど、そしたら、自分というものの成り立ちについてもなんとなくわかったような気がしたし、そうやって一つわかった気がしたら、統合失調症患者の心象風景にもなんとなく想像が及ぶような気がしたのです。そのつらさもね。
 
 こう考えると統合失調症は特別な病気じゃない、脳の機能の問題なのだろう、ただの病気なんだということがよくわかってくる。でもつらいだろうなぁ、と思います。そのつらさがよりリアルにわかってきます。

統合失調症あるいは精神分裂病  精神病学の虚実
計見 一雄
講談社 (2004/12/11)
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5 分裂病の神秘のヴェールを剥がし「単なる脳の運動機能障害だ」と


ISBN:406258316X