『うつと自殺』

 自殺者が年間3万人を超えて8年。表面的な理由として経済問題や雇用問題などが挙げられることが多いが、根底にはうつ病があるケースも少なくない。少なくないどころか、多い。

 ということでこの本は、自殺の裏にあるうつ病について書いている。大雑把に要約してしまえば、うつ病は自殺を招く病気であるからコレコレこのような症状がみられた場合には専門医にかかり、薬物治療を受けて休養しましょう、ということを促す本。とても真摯な思いによって、つまり善意で書かれたものであることはよく伝わってくるし、一般の読者にはわかりやすいのかもしれない。特に、うつ病が疑われる家族をもつ人には、うつ病の入門書としてなら参考になるだろう。

 だが、この本でうつ病の概略はわかるものの、うつ病にかかるとなぜ死にたくなるのかというところにまではほとんど言及しておらず、実際にうつ病者の周囲にいる人がとるべき行動といえば、医者へ行けという以外にほとんど何も書いてないのはいかがなものかと思った。

 生きる意欲をなくすので死にたいと思うのだ、という簡単な説明で、うつ病の最中のどうしようもなさは括りきれないとわたしは思う。うつ病と自殺をセットで論ずるのなら、この点にもっと踏み込み、そこから病気のせいで死にたいと思いつめている人に、周囲はどのように接したらいいのかというノウハウを導き出すべきではなかったか。

 また、うつ病を「心の病気」と何度も書いているところが気になった。予備知識をもたない人にはこのほうがわかりやすいと思ったのかもしれないが、ここは大事な点なので、うつ病は脳の病気であり、その症状が心にも表れる(もちろん身体症状も表れる)ということなのだから、そこをはしょらないでもっときちんと説明するべきだったと思う。


うつと自殺
うつと自殺
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筒井 末春
集英社 (2004/04)
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おすすめ度の平均: 4
3 少し物足りなさも・・・
5 真摯でわかりやすい、役立つ本です
ISBN:4087202399