066:逝かない身体

〈ケアをひらく〉逝かない身体ALS的日常を生きる
〈ケアをひらく〉逝かない身体ALS的日常を生きる
医学書院 2009-12
売り上げランキング : 35165

おすすめ平均 star
star体験を伝えるしずかな迫力
star文学的傑作

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 高校同期の友人id:ajisunの初単著。感動的なできばえでした。以下、amazonにアップしたユーザーコメントをコピペ。

 ほかの方も書いていらっしゃるように、“闘病記”と呼んでしまうことには躊躇を覚えます。単なる“介護記録”でもありません。著者は、ALSという難病を生きる母を見つめ、その母を介護する自分を見つめつつ、家族介護の閉じた関係性にこもってはいませんでした。またこの本は、「ALSという特殊な病気のお話」でもありません。人間なら誰でも病気にかかるという点で、誰にでも通じるテーマだと思います。

 学問で言うなら、社会学倫理学看護学政治学……いろんな分野へのヒントが詰まっていました。この物語が、いわゆる論文ではなく、文学として提示されたのは、必然であったと考えます。病いをめぐる人間の営みをくまなく記述し伝えたいと思えば、ものさし一つではとうてい足りないからです。

 たとえば、母上の病気が進行し眼球の動きもとまってまったくコミュニケーションがとれない状態になったときに著者はこう書いています。
「想像には限界があった。だから母のために私に何かができるのだとしたら、それはありのままの母を認めて危害を及ぼすようなことは一切しないことだ。」(p.199)
 人工呼吸器を止めれば母は楽になれるのではないか、という考えを反芻した末に、著者がたどりついた結論でした。「家族の代理意思決定」だの「慈悲殺の是非」だのといった聞き覚えのある言葉では語り得ないことだと感じました。

 言語的なコミュニケーションがとれなくなってからも、母上がその身体でさまざまなことを伝えてきた様子もつぶさに書かれていました。身体からなにを読み取りどう応えるかは、ひとえにケアにあたる側の感受性にかかっています。押さえた筆致からは、著者が意図するのは読み手を感動させることではなくて、人間の生がはらむ可能性を見逃さないでほしい、大切にしてほしい、という気持ちなのだとわかるのですが、やはり体験から紡ぎ出された言葉には、人の心を動かすしずかな迫力があります。

 これからわたしは折々にこの本を読み返すことになると思います。そして、読むたびに新しい発見をしていくことになるだろうと思います。

 読んですぐにでも感想をアップしたいと思っていたのだけど、絶対この本いいんです、読んでください!という気持ちが強いほど、手がすくんでしまって書けないものでこんなに遅くなってしまいました。1か月も寝かせておいて、その分だけいいレビューが書けるとかというと、そういうわけでもない。これより遅くなっても状況は変わらない。だったら、不完全でもとにかくアップしたほうがいいよ、と思ってえいやとアップしました。なんのことはない、今日こそ書くぞと決めたら20分でできちゃったんだ。

 こんなレビューではぜんぜん伝わりません。読んでやってください。よろしくお願いします。

065:あと千回の晩飯

あと千回の晩飯 (朝日文庫)
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朝日新聞社 2000-05
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死言状〔文庫版〕 (小学館文庫) 人間臨終図巻〈2〉 (徳間文庫) 人間臨終図巻〈1〉 (徳間文庫) 人間臨終図巻〈3〉 (徳間文庫) 風々院風々風々居士―山田風太郎に聞く (ちくま文庫)

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 山田風太郎、晩年の随筆。この本のことは奥川幸子さんの『身体知と言語』のなかに出てきて知った。約1年経って、やっと読んだわけだ。相変わらずやることがのろい。
 まあのろくてもそれなりでいいんだな、と自分を許せるようになるためにはこういう本を読んでおくといい。うまいこと年をとりたいなら、諦めたり、自分を笑ったりする姿勢が必要で、山田風太郎はそれを切なそうに、おもしろそうにやっているんだ。そこがおすすめ。
 そういう老人であるから、同じ話が何度出てきてもまあ愛嬌だ。これで原稿料もらってたのねー、などと妬んでいるようでは大老人にはなれんぞ、自分。
 もとは新聞・雑誌の連載であった。「いろいろな徴候から、晩飯を食うのもあと千回くらいなものだろうと思う」という書き出しは、初出が1994年。それから2年後の随筆まで収録。亡くなったのは、2001年であった。自分の予想より数年長生きされた。この随筆のなかにも出てくる、野生の象のようなわけにはいかなかった。だからなに? それでいいんじゃないかと思うのである。

064:父・こんなこと

父・こんなこと (新潮文庫)
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新潮社 1967-01
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 幸田文はいつ読んでも,こわい女だと思ってしまう。こんな女が友だちだったら一瞬でも気が抜けないと思ってしまう。翌日どこでどんな悪口を言われるかわかったもんじゃないからだ。それになんだか,毅然としすぎている。本人,自分のことを「かわいげがない」と書いているが,これは謙遜でも誇張でもなく,ほんとにかわいげのない女だと思う。じゃ,友だちになりたくないのかというと,そういうものでもない。こういう人が身の回りにいるというなら,その人自身も身ずまい正しくカッコ良い女なのだろうと思う。うらやましかったりする。
 という幸田文が,父・露伴を看取るまでのことを随筆にした作品。これまただいぶ前に読み終わって長らくここにメモを書かなかったので,どこがどうだったかは定かに覚えていないのだが,父を思い,世間と自分ら家族との位置をおもんばかり,出入りする人々の挙措を見つめる,いちいちが鋭く細かく,客観的でありながら直感的であり,何がどう書かれてあっても100%女であったことをつらつら思い出す。やさしくはないんだよね。自分がコレと決めた人にしかやさしくできない女だ。
 この人の書く文章は,詩みたいだ。どれだけ憧れても誰にもまねはできない。 

063:臨床瑣談 続

臨床瑣談 続
臨床瑣談 続
みすず書房 2009-07-23
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臨床瑣談 精神科医がものを書くとき (ちくま学芸文庫) うつ病臨床のエッセンス (笠原嘉臨床論集) 精神科養生のコツ 改訂 日時計の影

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 月刊「みすず」で不定期連載中の中井久夫先生の随筆をまとめた本。水色の表紙だった『臨床瑣談』の続巻です。ブックフェアに行ったとき,ちょうどこれが出た直後でみすず書房のブースで売っていたので即購入。ブックフェアの会場では1割か2割安くしている版元が多くてみすず書房もそうでした。なんかほかにも買って5000円を超してしまたら,オリジナルのエコバッグもくれました。
 な〜んていうどうでもいい話をしてる場合じゃない。年末だ。実は忙しい。
 読んだのは買ってすぐだったから,もうずいぶん経っている。中井久夫はわたしの精神安定剤であって,速効のカンフルだ。このときも,読んです〜っと鎮まった覚えがある。でも何が書いてあったのかは正直,禁煙の章以外ほとんど覚えてない。いずれまた,思い立てば読むんだから覚えていなくてもまあいいんだ。
 禁煙のところでは,中井久夫自身が禁煙したときの体験談が書いてあるんだけども,二日目の夜がいちばんつらかったとあって,それが“嵐の中で大木に必死ですがりついているかのような”と書かれていたものだから,うーむ……と思ってしまって自分にはどうしても無理なような気がし,なかなか禁煙に踏み切れなくなってしまった。こういう副作用は,忠実な中井信者(わたしは信者ですからw)であるほどシンコク。な〜んていうどうでもいい言い訳はしてもしかたないのはわかっているので,わたしはもうすぐ禁煙をするでしょう,たぶん。
 いま,読んだ本を取り出してみたら,1枚だけ付箋がついていた。さて,どんな箇所にわたしは付箋をしたのだろうか――おぉ,禁煙の章だ。題して「煙草との別れ,酒との別れ」。

・・・・いずれの方法にしても何十パーセントかは再発するというが,いちから始め直す力を持ちつづけることは,再発のたびに重症化してゆかないくらいのプラスになりうるだろう。再発のたびに同一効果をえるためにより強い圧力を患者に加えてしまうという袋小路に入る確率が下るということである。
(p.116) 

062:今かくあれども

今かくあれども
今かくあれどもMay Sarton

みすず書房 1995-02
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82歳の日記 独り居の日記 猫の紳士の物語 私は不死鳥を見た―自伝のためのスケッチ Recovering: A Journal

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 主人公はカーロという名の女性で,元教師。何歳だっけな,高齢だ。妹夫婦の家だったかなにかに寄せてもらっていたのだけど,折り合いが悪くて高齢者のグループホームに入った。入居者はほとんどが認知障害をもっている。自立心旺盛な彼女は,ホームに住み込みで働いているヘルパーに嫌われる。陰湿ないじめに遭い,それをノートに書きつければ被害妄想だと言われ,懲罰的な仕打ちをされて彼女はだんだんと生きる気力を失っていく。
 物語はカーロのひとり語りとして綴られている。実に実に陰鬱なトーンで。150ページぐらいしかない,そんなに長い作品ではないのに,この世界のことを読むのがイヤでたまらなくてなかなか読み進められなかった。イヤなら途中で読むのをやめればいいはずだが,わたしはそうはしなかった。カーロが最後にどうなるのか,どうしても結末を知りたかった。
 安易に「わかる」とは言えない。だけども想像はできてしまう。強い痛みを伴う想像だ。なぜ痛いのかといえば,これはいつかの自分自身かもしれないという考えから逃れることができないからだ。ただ,カーロと自分を重ね合わせて考えをめぐらすのはおそらく,女が大半なのであろうと,思う。男にはたぶん,わからない世界。意地の悪いヘルパーも女で,カーロも女で,わたしも女で,互いが互いを疎ましく思いつつも,互いがもしかすると自分かもしれないと知っている。こんな変な世界は男たちには無縁。
 なんかもうちょっと,老いに希望はないものなのか――。

 以下,抜粋。

 数日前,あの考えを書きつけたときは慰めになった。けれどいまの私は,そんなにけっこうなことがここでは起こりっこないことを知っている。老齢とは,ひとつずつ断念してゆくことだ,と人はいう。けれど,一度にそれがすべて起こってしまうと異様だ。これは人格にたいする真のテストであり,独房に閉じこめられることに似ている。私がいま所有するものといえば,すべて心のなかにしかない。
(p.9)

 それから,死ぬまえに,自分の内部ですませておきたいことがある。人間は,ひとりひとりが自分の死を創る,死に向かって熟してゆき,果実が熟したときはじめて落ちることを許される,というのが私の信念だ。いまもって,人生はプロセスだと私は信じているので,不自然なやりかたでその行程を終えたいとは思わない。たぶん私は,旧式なのだろう。そこから私は,自殺は一種の殺人,つまり怒りの行為ではないかと考える。心を腐らせるそんな汚れからは,私の魂を遠ざけていたい。でもまてよ,私の魂だって? そんなことばをつかって,いったい私はなにをいおうとしているのだろう。
 心のどこか深いところにあるなにものか,真正で,どんな不純なものからも離れていて,正と不正,真実と偽りの区別をするために人間にあたえられた道具――記憶が失われたあとでさえ生きつづける本質的な存在。私の魂とは,私が守りつづけるべうあたえられた宝物,私がなにものにも汚されることなく保つべきなにか――いや,どんな逆境にあっても,成長と自覚のうちに私が保つべきなにかと考える。
 けれども,いったい誰のために? そしてなんのために? それこそ神秘というもの。それがより大きな統一体,星々や蛙や樹々をも含むコミュニオンに属していると考えることができたときはじめて,それを「宝物」として守りつづけることに意味があるように思える。ときどき私は窓外の美しい景色のなかに,自分が溶けてしまうような気がすることがある。私はそのなかを浮遊する。一時間ものあいだ,なにもしないで,じっと安らぐ。そうして,滋養をあたえられて甦る。あの大昔からのやさしい丘たちと私はひとつだと。
(p.14-15)

 それは一目惚れというよりむしろ,即座の識別であり,愛とは異質だろう。私たちはおたがいを楽しんだ。それまで経験したことのないやりかたで,私は大事にされ賛美されていると感じた。
(p.29 過去の恋愛の回想)

・・・けれどスタンディッシュにはどんな慰めがあるだろう。私は彼のために死を願うけれど,彼が逝けば,私はここで唯一の友を失うことになる。私には自分がいまでも役に立つ,誰かに必要とされているという幻影が必要だ。私たちの絆は彼の耳が聞こえないために脆くはあったが,リアルだった。私があの暗い部屋から出てきたとき私を握りしめた彼の手――あれを私はけっして忘れないだろう。私たちにことばはいらなかった。私は自分にできる唯一のやりかたで彼を弁護したのであり,彼はそれを知っていたから。
(p.75 ホームの友人スタンディッシュの死に際して)

 老齢というものは,実は老人自身にしか見破ることのできない偽装だ。私の感じかたはいままでと少しもちがわないし,二十一歳のときと同じに心のなかは若いのだけれど,外側の殻がほんとうのわたしを隠し――ときには自分自身からさえ――私の内部深くにいる人間を,しわや肝臓のシミやその他あらゆる凋落の兆しで裏切る。私は,以前よりももっと強烈に物事を感じるようにこそなれ,その逆ではないと思うことがある。けれど,馬鹿のように見えることがとてもこわい。人びとは老人に平静を期待する。それが,年寄りに着用を期待されているマスクだし,ステレオタイプだ。けれど,何人の老人が平静でいられるだろう。私は一人か二人しか知らない。
(p.90)

061:新型インフルエンザはなぜ恐ろしいのか

新型インフルエンザはなぜ恐ろしいのか (生活人新書)
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新型インフルエンザ・クライシス (岩波ブックレット) インフルエンザ パンデミック (ブルーバックス) 豚インフルエンザの真実―人間とパンデミックの果てなき戦い (幻冬舎新書) 新型インフルエンザ完全予防ハンドブック (幻冬舎文庫) 新型インフルエンザ 本当の姿 (集英社新書)

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 ナーシング・トゥデイ09年12月号に書いた紹介コピー↓

新型インフルエンザを知ることで
感染症対策にもっと強くなる

 押谷医師はWHOでSARS等への対応の指揮をとった感染症専門医。この本は医療報道に携わってきた記者との対談記録で、H1N1の最新情報が正確にわかりやすく解説されている。

 つまり、インフルエンザの話をしているんだけども、それを理解することはすなわち、感染症とはなにか、公衆衛生とはなにかを知るということだという意味です。この本はその点でよくできていると思います。対談なので、読みやすいです。

060:シンプルレスピレータ

シンプルレスピレータ
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ERの裏技 極上救急のレシピ集 人工呼吸の考えかた 市中感染症診療の考え方と進め方 ICU実践ハンドブック―病態ごとの治療・管理の進め方 診察エッセンシャルズ新訂版

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ナーシング・トゥデイ09年12月号に書いた原稿↓

臨床ですぐに役立つ
呼吸器管理の症例別手引書

 初期設定10症例、使用中の管理5症例、離脱5症例の作業ステップを追い習得する構成。コラムも豊富で、役立ち度、読み応え、ともに充実している。

 で、これ、医師、研修医向けとなっていて、あーじゃー難しいのかな、と思う人がいるかもしれないんですが、実際に見てみると非常にわかりやすくよく整理されているので、難しくありません。看護師や、日常的にレスピレータの管理をしている介護者などにも十分に使えます。